YANTORはデザイナーの坂倉弘祐氏と
パターンメーカーの吉田賢介氏によるブランドで、
2008年に設立されました。
武蔵野美術大学卒業後に坂倉氏が同ブランドを立ち上げ、同年吉田氏が加わり、
2009-10年秋冬コレクションより、デザイナー自身による
パフォーマンスや映像、書籍などでコレクションを発表しています。
同ブランドは“SITUATIONS”という言葉を物づくりの理念として掲げています。
これは 衣服を“人と社会を繋ぐツール”として捉えており、衣服を作り、
その使い方で様々なシチュエーションを生み出すという意味が込められています。
衣服をツールとして捉えたYANTORの表現方法は
シーズン毎に行われるLOOK撮影にも表れています。
坂倉氏と吉田氏が旅の途中で出会ったその土地で生活をする人々へ
YANTORのコレクションを着用してもらい、
服を着るという行為を通じたコミュニケーションを図り、
そこから生まれる繋がりを表現する
“ONE by ONE”というプロジェクトへも取り組んでいます。
衣服を着る行為は、
私たちの日常に溶け込んでおり、
生活の一部として、当たり前に存在しています。
この“生活の一部”である行為だからこそ
YANTORの衣服は着用したその人の身体へ溶け込み
その人の生活を映し出し、
他者との繋がりをもたらします。
同デザイナーは“衣服を完成させるのはその衣服を着る人である”と語っています。
着る人の存在を常に考えながら作り出されている同ブランドの衣服は
1点1点への強い拘りが込められて誕生しています。
YANTORはゆったりとしたシルエットで
着用した際に感じる落ち感やドレープは着る人によって異なり、
1人1人の身体と対話するかのように、異なる趣きを見せてくれます。
これは同デザイナーの “フォルムへのこだわり”が関係しており、
ブランド設立当初から現在も
全てのパターンを、パターンメーカーである吉田氏が作り込んでいるため、
コストを抑えながら幾度も修正を重ねて、
“ゆったりしながらも、もたつかない”独特のフォルムを作り上げています。
また同ブランドはものづくりへのこだわりから
使用している生地の多くをオリジナルで製作しています。
日本一の毛織物産地である尾州で織られたものから、
インドの職人によって手織りで作り出されたものまで種類は様々です。
特に長い時間を要するインドでのオリジナルテキスタイルの製作は
2015年から始まっています。
より趣の深いテキスタイルを作る為に同デザイナーは
毎シーズンインドへ足を運び、
現地の職人と直接コミュニケーションを取ることを心掛けています。
こうした同デザイナーの徹底したものづくりへの拘りがあるからこそ、
着心地、シルエットにおいて私たちを魅了してくれるのでしょう。
そんな同ブランドに特別な布と言わしめたのが、
2020S/Sのメインテキスタイルであり、
オリジナルテキスタイルでもある“カディコットン”です。
カディコットンとは、主にインド大陸で生産されているテキスタイルです。
糸を手作業で紡ぎ、一本の不均一な太い糸を作り出し、
その糸を手織りの織機で織る為、
非常に時間と手間のかかる工程を経て1枚の布が完成します。
この“一枚の布”には手織りならではの温もりと特徴的な味わいが宿り、1点1点が異なった趣を見せています。
手作業で紡いだ糸は非常に柔らかく、また手織りで織られている為、空気を含み、非常に軽い仕上がりで、通気性にも優れています。
YANTOR2020S/Sコレクションでは、“I walk”というテーマが掲げられています。
“I walk”には服作りの工程において、
生地が地域を繋ぎながら旅をするという、
前回のコレクションから継続するテーマが込められています。
このテーマには、プリミティブな手織りという手法を使い
一つ一つの製品を大切に、ゆっくり作るという想いや、
消費思考の強いファッションのサイクルに対して、
少しゆっくり歩くように進むべきというブランドの意思を込めています。
前述したカディはインドがイギリスから独立する際に、
インド人のアイデンティティを表現する、
象徴としての側面を持ち、
糸や布を紡ぐ行為そのものが強い意志を表現する、
社会における大きな存在でもあったことに同デザイナーは魅了され、
膨大な時間を掛けて取り組んでいます。
カディに向き合った物づくりを通して、
インドの職人の技術の高さや、テキスタイルに宿る歴史的価値を体感したことで、
現在の消費活動が先行するファッションの仕組みに疑問を投げかけています。
YANTORの拘り抜いた2020S/Sのコレクションを通して、
一枚の布から広がる強い意志と想いを、
是非店頭で触れて、纏って、体感して頂けると幸いです。